建設業における残業代の考え方

建設業界に身を置き、毎日長時間働いているにもかかわらず、適正な残業代が支払われていないと感じている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
法的には残業代の支払いが必要であるものの未払いとなっているというケースは珍しくありません。
今回は建設業における残業代の考え方について解説をしていきます。

建設業の労働時間

統計上の労働時間と実際の労働時間のギャップ

統計上の労働時間と実際の労働時間のギャップ

厚生労働省の実施する毎月勤労調査(令和4年)によれば、建設業における、平均的な月の総労働時間は163.5時間、平均的な月の所定外労働時間(残業時間)は13.8時間とされています。
この数字だけ見れば建設業の労働時間はそれほど長くないとの印象を受けますが、建設業の現場では統計に反映されないサービス残業が蔓延しており、実際の残業時間が100時間を超えるという事例も存在します。

長時間労働につながる要素

長時間労働につながる要

建設業界は同業他社との競争が激しく、納期に多少の無理がある場合でも工期を延長せずに対応する傾向があります。
また、上下関係が厳しく若手が定着しにくい常態にあり、労働者1人でこなさなければならない業務量が増加する一方、慣習となったサービス残業にノーと言い出すことができず、結果として労働時間や残業時間が長くなっています。

使用者が労働者に残業を求める場合には労使間で36協定を締結の上、原則として月45時間・年360時間という残業時間の上限規制を遵守する必要がありますが、建設業については令和6年3月31日まで残業時間の上限規制の適用を受けません。
残業時間の上限規制の適用を受けない=いくらでも労働者を残業させてよいということを意味するものではありませんが、上記の建設業界の構造的な問題と相まって、残業時間の上限規制の適用を受けないという状況も建設業における長時間労働を助長しています。

残業代が未払いとなる要因

使用者による労働時間の管理がされていない

残業代が未払いとなる要因

建設業では現場への直行や現場からの直帰が多くなることからタイムカードなど客観的に労働時間を把握できる形での労働時間管理がされていないということがままあります。

本来、使用者には労働者の労働時間を把握する義務がありますが、それを使用者が行っておらず、勤怠上は使用者が定める所定労働時間(例えば、午前9時~午後6時・休憩時間1時間)について労働し、残業はしていないという処理とされるため、残業代が支払われないという仕組みです。

残業代は実際の労働時間に対応して支払われるべきものであり、使用者が義務である労働者の労働時間管理を行わないことで労働者の実際の労働時間を把握できなかったとしてもそれは残業代を支払わなくてよい理由には当然のことながらなりません。

他方で、残業代を請求するためには労働者の側で自身の労働時間を立証する必要がありますので、使用者による労働時間の管理がされていない場合には自身の労働時間を示す証拠を残しておくことが重要となります。

労働時間を立証する証拠としては以下のようなものが考えられます。
・業務日誌、日報
・上司との業務内容に関するメッセージのやり取り
・作業時に撮影した写真
・使用者が施主や協力業者に提出した報告書
・現場への移動に使用した自動車のナビの履歴やETCカードの利用記録
・事務所の入退場記録
・パソコンのログ
・始業・終業・業務内容を記録したメモ 等

現場への移動時間等が労働時間に含まれていない

現場への移動時間等が労働時間に含まれていない

建設業では実際に現場で作業した時間のみを使用者が労働時間として計算するという処理がとられていることがあります。

現場に到着する前後で、現場作業のための備品等を準備する時間、現場への移動時間、現場から事務所に戻って書類仕事をする時間等が発生することが考えられ、そのいずれもが労働時間に該当する可能性があります。

現場への移動時間についてはその労働時間性について争いになることが多いですが、移動中も使用者の指揮命令下に置かれているかという観点が重要となります。
現場への移動の前後に事務所へ出ることを義務付けられている、移動中も上司からの電話やメールの指示に対応する必要がある等の場合には移動時間も労働時間に該当する場合があります。

使用者から管理監督者として扱われている

使用者から管理監督者として扱われている

現場の施工管理や監督をしていると使用者から管理職に該当するとして残業代が支払われないということがあります。

労働基準法では「管理監督者」という地位にある労働者について、深夜残業分を除く残業代を支払わなくてよいということが定められており、施工管理等はそれに該当するという言い分です。

しかし、労働基準法の「管理監督者」に該当する労働者はごく限られています。
具体的には、経営者に近い権限を与えられており、労働時間について広い裁量が認められ、地位にふさわしい給与等の待遇を得ているという、ほぼ経営者といってもよい地位にある労働者のことを指します。

単に施工管理や現場監督であるという肩書から「管理監督者」性が認められるわけではなく、実際に「管理監督者」たる地位を与えられた施工管理等はほとんど存在しないのではないかと思われますので、「管理監督者」であることを理由に残業代を支払わないという使用者の言い分が通るケースはごく稀です。

使用者が「管理監督者」だから残業代を支払わなくてよいと言ってきた場合にはほぼ確実に未払いの残業代が存在すると考えてよいと思います。

残業代請求の消滅時効期間

残業代請求の消滅時効期間

未払いの残業代が発生している場合でも使用者に対して残業代請求をしないまま時間が経過してしまうと残業代の請求ができなくなるということがあります。

時間の経過によって残業代の請求ができなくなることを消滅時効といいますが、現時点における残業代の消滅時効期間は残業代が発生した時点(通常は毎月の給料日)から3年間です。

そのため、可能な限り多くの残業代を請求しようとする場合には残業代の発生から3年が経過しないうちに行動することが重要となってきます。

まとめ

今回は建設業における残業代の考え方について解説をしてきました。
建設業界全体として長時間労働の傾向にある一方、適切な残業代支払いがなされていない事例が数多く存在していますので、ご自身の給与に疑問がある場合には残業代請求の可否について、一度、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

ご相談・ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
労働分野について専門チームを設けており、ご相談及びご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
弁護士のプロフィールはこちら